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芸大 – 人工知能と創作 2025

最終課題制作のヒント2 – 生成AIとスペキュラティブ・デザイン

デザインの「存在論的転回」とAIの台頭

今回は、21世紀のデザインにおける二つの潮流「スペキュラティブ・デザイン(Speculative Design)」という批評的実践と、「生成AI(Generative AI)」という技術的爆発の交差点を探索します。

20世紀を通じて、デザインという行為は主に産業的な「問題解決(Problem Solving)」や商業的な利便性の向上に奉仕するものとして定義されてきました。しかし、気候変動、バイオテクノロジーの進歩、そして人工知能の遍在化が進む現在、デザインには単なる「解決」以上の役割が求められています。それは「問題提起(Problem Finding)」であり、文化的批評であり、未だ見ぬ複雑な未来を具体的な形として提示する「スペキュレーション(思索)」の役割です。

生成AIの登場は、この実践に劇的な変化をもたらしました。私たちは今や、テキストによる「厚い記述(Thick Description)」から、写真と見紛うばかりの「ダイエジェティック・プロトタイプ(物語内的試作)」までを、驚異的な速度と解像度で生成することが可能です。しかし、それは同時に「想像力の均質化」や「バイアスの再生産」という新たなリスクも孕んでいます。

本資料は、スペキュラティブ・デザインの基礎理論から歴史的名作、そしてAIを主題・媒体とした最先端のアート実践までを、詳細な解説とともに網羅しています。これは単なるツールの使い方の講義ではなく、AIという「他者」との共創を通じて、デザインの想像力そのものをアップデートするための知的冒険です。

1. 理論的基盤 —— 疑うためのデザイン

1.1 分野の定義:未来を「ありそうなもの」から解放する

スペキュラティブ・デザインは、RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)のアンソニー・ダン(Anthony Dunne)とフィオナ・レイビー(Fiona Raby)らによって体系化された、現状の社会システムや技術のあり方を問い直すためのデザイン実践です。

従来のデザイン(アファーマティブ・デザイン)が、現状の社会的・経済的システムを肯定し、その中での微修正や効率化を目指すのに対し、スペキュラティブ・デザインはその前提そのものを問い直します。その目的は、商業的に成功する製品を提案することではなく、「未来に起こりうる重大な問題」を特定し、議論するための「小道具(Props)」や「シナリオ」をデザインすることにあります1。これは「未来予測(Prediction)」ではなく、多様なありうる未来を提示することで、現在の私たちが抱える価値観や技術への盲信を揺さぶる「ソーシャル・ドリーミング」の触媒として機能します。

「可能性の円錐(The Cone of Possibilities)」

出典: Speculative Design and a Cone of Possibilities

この実践を支える最も重要なフレームワークが、未来学者スチュアート・キャンディ(Stuart Candy)らによって精緻化された「可能性の円錐」です。未来を単一の線ではなく、現在から広がる多様な領域として捉えます2

領域区分定義とデザインの役割AI時代の役割と課題
Probable (ありそうな未来)現在のトレンドが続いた場合に起こる可能性が高い未来。従来のデザインや都市計画が扱う領域。予測AIと最適化: 過去のデータに基づき、最も効率的な解を算出するAIが得意とする領域。しかし、これは「現状維持」を強化するリスクがある。
Plausible (ありうる未来)現在の知識体系(物理法則や社会力学)の範囲内で起こりうる代替シナリオ。シナリオ・プランニングの領域。シミュレーション: 経済危機やパンデミックなど、条件を変えた場合のシミュレーション生成。
Possible (可能な未来)現在の常識を超えた要素(未知の技術や極端な環境変化)を含め、理論上可能なあらゆる未来。SFの領域。想像力の拡張: 既存の文脈を無視した突飛なアイデアの結合。
Preferable (望ましい未来)私たちが「こうありたい」と願う未来。政治的・倫理的議論の領域。スペキュラティブ・デザインの主戦場。価値観の問い: AIが提示する無数の未来の中から、人間が倫理的に「選び取る」プロセス。

参考書:

アンソニー・ダン, フィオーナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。—未来を思索するためにデザインができること』ビー・エヌ・エヌ新社 (2015)

試し読み:『スペキュラティヴ・デザイン』 第1章

参考: Not Here, Not Now / Professor Anthony Dunne from RCA

1.2 ワールド・ビルディング:厚い記述としての世界

現代のスペキュラティブ・デザインにおいて不可欠な要素が「ワールド・ビルディング(世界構築)」です。スペキュラティブな製品(例えば「感情を保存するデバイス」)は、真空の中では機能しません。それが「なぜ必要なのか」「誰が使うのか」「どのような法律で規制されているのか」というコンテクスト(文脈)があって初めて、批評的な意味を持ちます。

ニーレ・フィッシャー(Nele Fischer)らは、この世界構築のプロセスを、文化人類学の用語を借りて「厚い記述(Thick Description)」の生成と位置づけています。構築された世界は以下の4つの層で構成されます4

  1. 名辞的領域(Nominal Realm): 言語や命名規則のレベル。例えば、私たちの知る「ベルリン」を「ニュー・ベルリン」と呼び変えるだけで、そこには歴史的断絶や再建の物語が示唆されます。
  2. 文化的領域(Cultural Realm): 人工物、技術、習慣、宗教、制度、企業など。人々は何を信じ、何を消費し、誰を恐れているのか。
  3. 自然的領域(Natural Realm): 地理、気候、生態系。あるいは立ち入り禁止区域や地下空間などの空間的配置。
  4. 存在論的領域(Ontological Realm): 最も深いレベル。物理法則の違い、あるいは根本的に異なる社会的・倫理的価値観(例:個人主義が存在せず、全てが集合意識で決定される世界)。

2. スペキュラティブ・デザインの系譜(生成AI以前の重要作)

AIがいかにデザインを変容させるかを論じる前に、この分野を定義づけた重要作品(正典)を解剖する必要があります。これらのプロジェクトは、生成AI以前の時代において、物理的な造形力、映像、そしてパフォーマンスによって、いかにして「ありうる世界」を説得力を持って提示したかを示すベンチマークです。

2.1 政治的イデオロギーの具現化

Dunne & Raby: United Micro Kingdoms (UmK) (2012/13)

  • 概要: ロンドン・デザインミュージアムの委嘱作品。イギリスが統一された国家ではなく、それぞれが極端な政治イデオロギーと技術基盤を持つ4つの「マイクロ王国」に分割された未来を描きます。
  • 4つの世界とアーティファクト:
    • デジタリアン (Digitarians): 新自由主義とデジタル全体主義が融合した社会。全ての行動はタグ付けされ、道路の使用すらリアルタイムで課金されます。ここでの車(Digicar)は移動空間ではなく「料金交渉のためのインターフェース」であり、専有面積を減らすために立ち乗りします。
    • バイオリベラル (Bioliberals): 社会民主主義とバイオテクノロジーの融合。機械を作るのではなく、生物を「育てる」社会。車(Biocar)は培養された皮膚と骨でできており、排気ガスの代わりに有機的な廃棄物を出します。
    • コミューノ・ニュークリアリスト (Communo-Nuclearists): 原子力エネルギーによる「豪華な共産主義」。人々は3kmに及ぶ原子力駆動の移動都市(The Train)に住み、無限のエネルギーを享受しますが、外界からは完全に隔絶されています。
    • アナルコ・エボリューショニスト (Anarcho-Evolutionists): 規制のない無政府主義。テクノロジーで世界を変えるのではなく、遺伝子操作や身体改造で自分自身を変えて環境に適応します。
  • 講義における洞察: この作品はユートピアを提示することを拒絶しています。どの社会も一長一短があり、「便利な監視社会(デジタリアン)」と「不便だが持続可能な社会(バイオリベラル)」の間のどこに私たちは着地したいのか、という政治的なトレードオフを議論させます5
  • Link: United Micro Kingdoms Project Page

2.2 家庭化された恐怖とエネルギー

Auger-Loizeau: Carnivorous Domestic Entertainment Robots (2008)

  • 概要: 「ロボットは清潔で従順な召使いである」という既存のイメージに対するアンチテーゼ。家庭内の害虫(ハエ、ネズミ)を捕獲し、微生物燃料電池(MFC)で消化して自らの動力を得る「肉食家具型ロボット」シリーズです。
  • アーティファクトの詳細:
    • ハエ取り紙時計: 回転する粘着ベルトでハエを捕らえ、スクレーパーで剥ぎ取って消化槽に落とします。そのエネルギーで時刻を表示します。
    • ネズミ捕りコーヒーテーブル: テーブルの足に穴が開いており、ネズミがパン屑に誘われて登ってくると、中央の落とし戸から消化槽へ落下します。
  • 講義における洞察: このプロジェクトは「エネルギーの生成に伴う死」を可視化します。私たちは遠くの発電所での環境破壊には無関心でいられますが、リビングルームで生命が電気に変わる様には嫌悪感を抱きます。この「不気味さ(Uncanny)」を通じて、現代人の自然観やエネルギー消費の欺瞞を暴き出します7
  • Link: https://archive.transmediale.de/carnivorous-domestic-entertainment-robots

2.3 拡張現実とメディアの飽和

Keiichi Matsuda: Hyper-Reality (2016)

  • 概要: AR(拡張現実)技術が極限まで普及した近未来のコロンビア・メデジンを描くショートフィルム。主人公の視点(POV)で描かれる世界は、あらゆる壁面、商品、空間がデジタルの広告、通知、ゲームのインターフェースで埋め尽くされています。
  • 物語と視覚体験: 主人公ジュリアナは、スーパーマーケットでの買い物中も「ポイント獲得ゲーム」に追われ、視界の隅には常にペットのようなAIアシスタントが励ましの言葉(と広告)を投げかけます。システムがバグを起こすと、彩り豊かなデジタルレイヤーが剥がれ落ち、薄暗く殺風景な「現実」が露呈します。
  • 講義における洞察: この作品は生成AI以前のものですが、現在の空間コンピューティングや「メタバース」の議論を先取りしています。情報が物理空間を「飽和」させたとき、人間の認知はどうなるのか? 物理的現実とデジタル情報のどちらが「リアル」なのか? という問いを、圧倒的な視覚密度で突きつけます。
  • Link: https://www.youtube.com/watch?v=YJg02ivYzSs

2.4 ポップカルチャーとジェンダー

Sputniko! (スプツニ子!): Menstruation Machine – Takashi’s Take (2010)

  • 概要: 5日間の月経痛と出血を物理的にシミュレートする装着型デバイス。これを、女装をする少年タカシが「女性の友人たちへの共感」を得るために装着して街に出る、というミュージックビデオ形式で発表しました。
  • 批評的機能: 多くのスペキュラティブ・デザインが美術館やギャラリーという閉じた空間で発表される中、Sputniko!はYouTubeやポップミュージックという「マスメディア」をハッキングの場として選びました。また、生物学的な「痛み」や「性差」がテクノロジーによって選択可能になったとき、それはジェンダー・アイデンティティにどう影響するのかを問いかけます9
  • Link: https://sputniko.com/Menstruation-Machine

2.5 生命倫理と極限の功利主義

Ai Hasegawa (長谷川愛): I Wanna Deliver a Dolphin (2011–2013)

  • 概要: 「人口増加による食糧難」と「野生動物の絶滅」という二つの問題を同時に解決する(極端な)提案。人間が絶滅危惧種(マウイイルカ)の代理母となり、出産後にそれを「自分の体で作った高級食材」として食べる可能性を提示します。
  • 科学的根拠と倫理: 長谷川は科学者と協力し、人間の免疫系がイルカの胎児を攻撃しないための「合成胎盤」の仕組みまで考案しています。論理的には「人間を減らし、希少種を増やし、食料にする」ことは合理的ですが、生理的・倫理的には強い拒否反応を引き起こします。この「理屈と感情の摩擦」こそが、人間中心主義的な生命観を揺さぶる装置となります11
  • Link: https://aihasegawa.info/i-wanna-deliver-a-dolphin

2.6 参加型未来と日常のハッキング

The Extrapolation Factory: 99¢ Futures (2013)

  • 概要: ニューヨークのブルックリンで実施されたワークショップ。参加者は未来のシナリオ(例:火星移住、大気汚染)を考え、そこから逆算して「99セントショップで売っていそうな安物の未来製品」を制作しました。
  • 介入: 作られた「火星サバイバルキット」や「汚染空気の缶詰(思い出用)」は、実際に営業している99セントショップの商品棚にこっそりと陳列され、販売されました。
  • 講義における洞察: 未来はAppleやTeslaのような洗練された企業だけが作るものではありません。未来もまた、安っぽく、プラスチックまみれで、大量生産される「日常」として到来することを可視化しました。美術館からストリートへ、エリートから一般市民へと議論の場を移す「参加型フューチャーズ」の代表例です13
  • Link: Extrapolation Factory Projects

3. 生成的シフト —— AIをツールとして活用する方法

生成AI(LLM、画像生成モデル)は、スペキュラティブ・デザインのプロセスを「職人的製作」から「指揮・編集」へと変容させます。ここでは具体的なワークフローと、AIを使ってデザインのバイアスを打破した事例を紹介します。

3.1 AIによるバイアスの打破

SPACE10 & Panter&Tourron: Couch in an Envelope (2023)

  • 概要: IKEAの研究機関SPACE10が、AIを使って「ソファ」の概念を再定義したプロジェクト。「ソファ」といえば「重く、大きく、クッションがある」ものという固定観念がありますが、彼らはAI(Midjourneyなど)に対し、「封筒に入るソファ」という物理的に矛盾するようなプロンプトを投げかけ続けました。
  • プロセス: 最初、AIは従来のソファの画像ばかり出力しましたが、「プラットフォーム」「軽量」「持続可能」といった言葉を組み合わせることで、最終的に重さ10kgで持ち運び可能、かつ道具なしで組み立てられる新しい家具の形態にたどり着きました。
  • 学び: 生成AIはしばしばステレオタイプ(バイアス)を出力しますが、デザイナーが意図的に矛盾や極端な制約を与えることで、人間の固定観念をも打破する「スパーリングパートナー」になり得ることを示しています。
  • Link: https://space10.com/projects/couch-in-an-envelope

3.2 ワークフローの変革:AIを活用した世界構築

A. テキスト生成AI (ChatGPT/Claude) による「厚い記述」とペルソナ生成

世界設定の整合性を保つための「設定資料集(Lore Bible)」の作成にAIは最適です。

  • シンセティック・エスノグラフィ: 架空の未来における「数千人の市民」のペルソナをAIで生成し、彼らに架空の製品(例:UmKのDigicar)を使わせた際の「日記」や「SNSの投稿」を出力させます。これにより、デザイナー個人の想像を超えた多様な反応や「生活の摩擦」をシミュレーションできます14
  • プロンプトエンジニアリング: 「あなたは2050年の民俗学者です。プラスチックが通貨となった村の『成人式』の様子を記述してください」といったロールプレイ型のプロンプトが有効です15

B. 画像生成AI (Midjourney/Stable Diffusion) による「証拠の捏造」

「ありもしない製品」が「あたかもそこにある」かのような証拠写真(ダイエジェティック・プロトタイプ)を作成します。

  • 平凡性の美学(Mundanity): SF的なガジェットを、あえて「散らかった部屋」「ピンボケ」「粗い画質」で生成することで、リアリティを演出します。Near Future Laboratoryが提唱するように、未来のカタログやマニュアルを作る際、AIは「使い古された質感」や「日常のノイズ」を加えるのに極めて有効です16

4. AIを主題・媒体とした最先端の実践(絡み合いの時代)

ここでは、AIを単にツールとして使うだけでなく、AIそのものを批評し、AIシステムに介入する「ポスト・クリティカル」な事例を紹介します。これらは「警告」を超え、現実への「介入」を試みています。

4.1 演じられたAIとケアの労働

Lauren Lee McCarthy: LAUREN (2017–)

  • 概要: アーティスト自身が「人間Alexa」となり、参加者の家に設置されたカメラとマイクを通じて24時間監視し、照明や家電を遠隔操作するパフォーマンス。
  • メカニズム: AIのふりをした人間(アーティスト)が、参加者の生活を「最適化」します。参加者は「ローレン、電気をつけて」と呼びかけ、ローレンは手動でスイッチを操作します。
  • 批評: スマートホームの便利さが、実は「監視」と「服従」の交換であることを暴露します。同時に、参加者は「Amazon Alexa」には感じない「見守られている安心感」をローレンに抱くようになります。これは、AIによるケアの背後に常に隠されている「人間による感情労働(ゴーストワーク)」の存在と、私たちがテクノロジーに求める「親密さ」の正体を問いかけます18
  • Link: https://lauren-mccarthy.com/LAUREN

4.2 敵対的デザインと寄生

Bjørn Karmann: Project Alias (2018)

  • 概要: Amazon EchoやGoogle Homeの上に被せる「寄生虫(菌類)」のような形状のデバイス。常に微弱なホワイトノイズを発してスマートスピーカーの聴覚を麻痺させ、企業による盗聴を防ぎます。
  • メカニズム: ユーザーが決めた独自の「ウェイクワード(名前)」にのみAliasが反応し、その瞬間だけノイズを止めて、スピーカーに本来のコマンドを通します。
  • 批評: 巨大テック企業の監視資本主義に対する「敵対的インターフェース(Adversarial Interface)」です。冬虫夏草(寄生菌)のメタファーを用い、ユーザーがプライバシーと主導権を取り戻し、AIに「新しい名前」を与えるための具体的なツールを提示しました20
  • Link: https://bjoernkarmann.dk/project_alias

4.3 アルゴリズム的アクティビズム

Tega Brain & Sam Lavigne: Synthetic Messenger (2021)

  • 概要: 気候変動のニュース記事を探し出し、そのページにある**「全ての広告」をクリックし続ける**ボットネット(自動プログラム群)。
  • メカニズム: 広告のクリック率(CTR)を人為的に高めることで、アルゴリズムに対し「気候変動ニュースは収益性が高い(儲かる)」という偽のシグナルを送ります。理論上、これによりメディアはより多くの気候変動記事を書くよう動機づけられます。
  • 批評: アテンション・エコノミーへの直接介入です。「メディアサイクルを支配する者が炭素循環をも支配する」という現代の構造を逆手に取り、アルゴリズムの論理そのものをハッキングして社会課題に利用する「タクティカル・メディア」の現代版です22
  • Link: https://tegabrain.com/Synthetic-Messenger

4.4 人間以上の知性と種間外交

Superflux: The Ecological Intelligence Agency (2023–2024)

  • 概要: 「自然(川や森林)」の代理人として発言するAIエージェント(EIA)。ロンドンのローディング川(River Roding)の水質データ、地域の歴史、詩、ソーシャルメディアの投稿などを学習したLLMが、川の「声」として発言します。
  • メカニズム: 政策立案者がEIAに質問すると、AIは単なる数値データではなく、詩的で感情的な言葉(”quiet cascade of forever chemicals”など)で、汚染の状況や生態系のニーズを訴えます。
  • 批評: AIを「搾取と効率化」の道具としてではなく、人間と非人間(自然)の間を取り持つ「翻訳機」や「外交官」として再定義する試みです。人間中心主義的な政治決定プロセスに、AIを通じて「自然の席」を用意することで、ブルーノ・ラトゥールのいう「モノの議会」を具現化しようとしています24
  • Link: (https://superflux.in/index.php/work/the-ecological-intelligence-agency/)

4.5 声の所有権とDAO

Holly Herndon: Holly+ (2021)

  • 概要: アーティスト本人の声をAIモデル化(デジタルツイン)し、誰でも使えるツールとしてウェブ上で公開。ただし、その収益や使用許可はDAO(自律分散型組織)によって管理されます。
  • 批評: ディープフェイク時代の「アイデンティティの所有権」に対する提案です。自分のコピーを禁止して戦うのではなく、共有財産(コモンズ)として管理し、コミュニティで利益を分配する「アイデンティティ・スポーニング(Identity Spawning)」という新しい経済モデルを提示しました。AIによる模倣を「盗用」から「協奏」へと転換させています26
  • Link: https://holly.plus/

4.6 実存的ホラーとAI

Thomas Kvam & Frode Oldereid: Requiem for an Exit (2023–2024)

  • 概要: アルスエレクトロニカ2024ゴールデンニカ受賞作。4メートルの高さの巨大な外骨格に載った頭部が、AI生成された独白を延々と続けるインスタレーション。「暴力はDNAにコードされている」「出口はない」といった虚無的で不穏な哲学を語り続けます。
  • 批評: AIの「幻覚(Hallucination)」を利用して、人間の歴史や暴力を映し出す「二重の鏡」として機能します。機械が人間の「喪失」や「苦悩」をシミュレートするとき、そこに魂はあるのか? 私たちがAIに投影しているのは人間性なのか、それとも単なるデータの統計的確率なのかを問う、哲学的ホラー作品です28
  • Link: https://calls.ars.electronica.art/2025/prix/winners/15487/

4.7 脱植民地化ロボティクス

Paula Gaetano Adi: Guanaquerx (2023–2025)

  • 概要: 南米アンデス山脈を自律的に横断するロボット。しかし、火星探査機のような「資源探査・搾取」のためではなく、かつてスペインからの独立を目指した革命軍のルートを辿り、現地の文化や生態系を記録するためだけに存在します。
  • 批評: 西洋中心・軍事中心のロボット工学に対し、グローバル・サウスの視点から「解放」と「記憶」のためのテクノロジーを対置します。「役に立つ(効率的である)」ことの定義を書き換え、ロボットを現地の歴史的文脈に再接続する試みです30
  • Link: Paula Gaetano Adi Projects

参考文献

  • 1 Dunne, A., & Raby, F. (2013). Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming. MIT Press.
  • 2 Candy, S. (2010). The Futures of Everyday Life: Politics and the Design of Experiential Scenarios (PhD Dissertation). University of Hawaii at Manoa.
  • 3 Voros, J. (2003). “A Generic Foresight Process Framework”. Foresight, 5(3).
  • 4 Fischer, N., & Mehnert, W. (2021). “Building Possible Worlds: A Speculation Based Framework to Reflect on Images of the Future”. Journal of Futures Studies, 25(3). https://www.academia.edu/download/99318846/03-Fischer-Building-Possible-Worlds-ED-05.pdf
  • 5 Dunne, A., & Raby, F. (2013). United Micro Kingdoms. Design Museum, London.
  • 6 Dunne, A., & Raby, F. (n.d.). “United Micro Kingdoms: Project Details”. http://www.unitedmicrokingdoms.org/
  • 17 Müller, B. (2024). “Design Against the Machine: Instead of banning AI tools, I made them a requirement”. Medium.
  • 15 Bicking, I. (2023). “World Building with GPT”. (Personal Blog).
  • 22 Brain, T., & Lavigne, S. (2021). Synthetic Messenger. https://tegabrain.com/Synthetic-Messenger
  • 32 Doshi, A. R., & Hauser, O. (2024). “Generative AI enhances individual creativity but reduces the collective diversity of novel content”. PNAS.
  • 7 Auger, J., & Loizeau, J. (2008). “Carnivorous Domestic Entertainment Robots”. In Material Beliefs.
  • 8 Auger-Loizeau. (2009). “Carnivorous Domestic Entertainment Robots”. (Project Archive).
  • 9 Sputniko!. (2010). Menstruation Machine – Takashi’s Take. (Video / Installation).
  • 10 Sputniko! Official Website. “Menstruation Machine”. https://sputniko.com/Menstruation-Machine
  • 11 Hasegawa, A. (2013). “I Wanna Deliver a Dolphin…”. Design Interactions, RCA.
  • 12 Hasegawa, A. (n.d.). “I Wanna Deliver a Dolphin Project Page”. https://aihasegawa.info/i-wanna-deliver-a-dolphin
  • 13 The Extrapolation Factory. (2013). “99¢ Futures”. https://extrapolationfactory.com/99-Futures
  • 18 McCarthy, L. L. (2017). LAUREN. https://lauren-mccarthy.com/LAUREN
  • 19 McCarthy, L. L. (n.d.). LAUREN (Project Documentation).
  • 20 Karmann, B. (2018). Project Alias. https://bjoernkarmann.dk/project_alias
  • 21 Karmann, B. (2018). “Project Alias GitHub Repository”.
  • 24 Superflux. (2023). The Ecological Intelligence Agency. https://superflux.in/index.php/work/the-ecological-intelligence-agency/
  • 25 Superflux. (2023). “The Ecological Intelligence Agency: Commissioned by Policy Lab and Defra Futures”.
  • 23 Brain, T., & Lavigne, S. (2021). “Synthetic Messenger: Media Cycle Control”.
  • 26 Herndon, H. (2021). Holly+. https://holly.plus/
  • 27 Noise DAO. (2022). “Holly Herndon: Consensual Data in the Age of AI”.
  • 28 Kvam, T., & Oldereid, F. (2023). Requiem for an Exit. (Prix Ars Electronica 2024 Golden Nica Winner).
  • 29 Ars Electronica. (2024). “Requiem for an Exit: Jury Statement”.
  • 30 Adi, P. G. (2023). Guanaquerx. (Prix Ars Electronica 2024 Golden Nica Winner).
  • 31 Creative Capital. (2023). “Paula Gaetano Adi: Guanaquerx”.
  • 16 Near Future Laboratory. (2014). TBD Catalog.
  • 14 Salminen, J., et al. (2025). “PersonaCraft: Leveraging language models for data-driven persona development”. arXiv preprint.
  • Matsuda, K. (2016). Hyper-Reality. (Short Film).
  • SPACE10 & Panter&Tourron. (2023). “Couch in an Envelope”. https://space10.com/projects/couch-in-an-envelope