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はじめに – 『Processing クリエイティブ・コーディング入門 – コードが生み出す創造表現』より

※ 以下の文章は、『Processing クリエイティブ・コーディング入門 – コードが生み出す創造表現』の序文のために書かれたものです。書籍に掲載されたものはページ数の関係で若干短くなっているので、オリジナルのバージョンをこちらに投稿します。

この本で使用していくプログラミング開発環境Processingの開発者の1人であるケーシ・リース(Casey Reas)は、講演の中で、これからのプログラマーは「ハイブリッド」であるべきだと主張しています。[1]

彼は、ハイブリッドまで至るプログラマーの歴史を、4つの段階にまとめました。

  • リアル・プログラマー
  • ハッカー
  • アマチュア
  • ハイブリッド

「リアル・プログラマー」は、1940年代から50年代にコンピュータが発明された当初の「真の」プログラマー達です。その多くはコンピュータを専門に扱う科学者達で、国家的プロジェクトによって建造された世界に僅かしかない巨大なマシンをプログラミングできる一握りのエリート達でした。

その後に続くのが「ハッカー」の時代です。1960年代から70年代にかけて、国家や軍などではなく大学の研究室などでもコンピュータが利用できるようになった時代に生まれました。コンピュータをハック(様々な技術を組み合わせて創意工夫)することで、コンピュータゲームなどそれまでに無い様々なカルチャーを生みだしていきました。

1980年代になると、一般家庭にもコンピュータが普及し始めて、誰にでもプログラミングができるチャンスが生まれました。これが「アマチュア」の時代です。BASICなどの学習用のプログラミング言語を通して、趣味としてプログラミングを楽しむ時代になりました。

これらの時代に続く、現代のプログラマー像として提示しているのが「ハイブリッド」なプログラマーです。ここでハイブリッドが意味するものは、何か別の専門分野とプログラミングとの混合(ハイブリッド)です。現代でももちろん専業のプログラマーは数多く存在します。しかし、これからより重要となってくるのは、他の専門分野を持ちつつプログラミングによって実現する能力なのです。アーティスト、デザイナー、建築家、教師、作曲家、データサイエンティストといった様々な分野でプログラミング能力が必要とされています。

Processingは、こうしたハイブリッドなプログラマーのために開発されたプログラミングの環境です。プログラマーになるためにプログラミングを学ぶのではなく、プログラミングで何かを創造したい人達のための道具なのです。

コンピュータが高速化し、多くの便利なアプリケーションが開発され利用されるようになって、いつの間にかコンピュータを利用することとプログラミングすることが乖離してきました。専門のプログラマー達が開発したアプリケーションを業務で使用するというようになると、コンピュータがどんどんつまらなく味気ない存在になってしまっています。

最近になって、PCなど無くても、スマートフォンやタブレットで十分という意見もあります。スマートフォンさえあれば、チャットやSNSやゲームなどのコンテンツを消費することは誰にでもできます。また、人工知能が発達すればプログラミングは必要なくなるという予想をする人達もいます。

しかし、現段階ではスマートフォンやタブレットでプログラミングすることは困難です。また、AIによって全てが作られる未来が本当だとすると、人間は何も生みださずただコンテンツを消費し、巨大企業にデータを提供するだけの存在になってしまいます。

しかしコンピュータは消費ではなく、新たに何かを生みだすことができます。プログラミングで何かオリジナルなものを創造することこそ、コンピュータの根源的な力であり、最も刺激的な行為なのです。そうして何かを生みだす行為は、たとえAIが普及したとしても失われることなく続くことと信じています。

この本は、そうしたハイブリッドなプログラマーを目指す方々のために書きました。この本を足掛りにして、新たな創造の可能性が拡がることを願っています。

[1] Casey Reas, History of the Future, Art & Technology from 1965 – Yesterday | Casey Reas | The Gray Area Festival